ジュスティーヌちゃん ー泥棒家族ー

~ほたるさんと呼ばれて~ から抜粋

「泥棒家族」はしゃれた楽しい作品でした。
舞台は南フランスのとあるお屋敷の一室。

いわゆる一杯飾りの装置で、草笛光子さんと園佳也子さんの住むお屋敷ですが、2人は実は女盗賊なのです。その家にこそ泥(近藤正臣さん)が侵入した場面から芝居は始ります。

その出演者の中に「ジュスティーヌ」という子犬が登場します。犬種はプードルでまだプードル特有の毛の刈込をしていませんでしたから、子羊のようでした。可愛くて可愛くてジュスティーヌが登場するだけで、客席から歓声が上がります。

ジュスティーヌは場つなぎで園さんとカーテンの前に出る時、毎日同じ場所で「おしっこ」したりして人気をさらっていました。時には「大きい方」も…。園さんは「かみー」と叫びトイレットペーパーで後始末をしつつ「私は女優よー」と叫んでいらっしゃいました。

芸術座の夏の公演「泥棒家族」の時のエピソードを書いたものです。
これには、後日談がありました。

「泥棒家族」の千秋楽、2ヶ月の公演が終了し、芸術座恒例「鍵渡し式」が行われました。
以下は、主演の草笛光子さんのご挨拶の一部です。
「ジュスティーヌは最初、公演のために「東宝」がキャストとして迎えた犬でした。
子犬でしたから、途中で体調を崩すようなこともあり、正直心配いたしました。
公演の途中から、私が自宅に連れて帰ることになり、24時間一緒に過ごすようになりました。
芸術座に行く時間になると賢いこの子はちゃんと解っていて、『行こう!』と一緒に劇場に向かいます。
そうやって毎日、2ヶ月近くの日々を過ごして参りました。
明日からこの子は「ジュスティーヌ東宝」から「ジュスティーヌ草笛」になります。
私はこれから、芸術座に行かないんだということを、この子にどう伝えようかと、頭を悩ませております。ジュスティーヌ、お疲れ様。」

こんなニュアンスのお話だったと思います。
もうもう客席は拍手喝采でした。

―「泥棒家族」1981年(昭56)夏 芸術座にて上演―


「泥棒家族」プログラム