按摩さん

按摩さん ~大門伍朗さん~

大門伍朗さんに私の拙い「ほたるさんと呼ばれて」をお読みいただきました。

実は大門さんとは不思議なご縁があります。
私は東京都北区在住ですが、何回か通勤時に大門さんを北区でお見かけしたことがありました。
数年前近所のバス停でバスを待っていると、そこになんとなくお見掛けしたことがあるような方が……。ひょっとして、とお声かけしてみると、やはり大門さんでした。私が帝劇の劇場案内係だったことをお伝えすると、ビックリ。
バスが来たんで車中でお話させていただきました。

大門さんのお姉上がこのご近所にお住まいだそうで、よくよく伺うと前々から存じ上げている「ご近所さん」でした。二度ビックリ。その日はお姉上を訪ねられ、その帰りに私がお声かけした、というイキサツでした。そりゃあ、私が区内で大門さんをお見掛けするはずです、合点がいきました。

大門さんは、「世界のNINAGAWA」蜷川幸雄さん演出の「近松心中物語」で、太鼓持ち役でご出演、一度見たらおいそれとは忘れられないキャラクターで、テレビでお見掛けした時は「おばあさん(ご本人は、もちろん男性です)」役で出ていらしてなんともはや、ブラウン管(ふる!)から目が離せませんでした(笑)。

さて、私の本をちょっと遅れてですが、送らせていただきました。そうしたら、なんとご本人さまから電話がかかって来ました。
「だぁいもん でございます」と、大門さんをご存じの方ならこのニュアンス、お解りいただけると思いますが、思わずこちらが「ハイ♪」とワクワクするようなお声でした。

色々とお話させていただきました。本を懐かしく、楽しく拝読した、と言っていただき、話も弾みました。
山岡久乃さんのお話になりました。近松の方々はみなさん「山岡のおかあさん」と山岡さんを呼ばれます。
面白いエピソードをお聞かせ下さいました。

江戸三部作「南北恋物語」で、大門さんは「按摩さん」役で出演されていたそうです。
私が「確か山岡さん、あの時舞台から落ちられましたよね!?」というと、そうだったね、と。

私の記憶が正しければ山岡さんは「オーケストラピット」の中に落ちられた。
舞台前、客席最前列の前にあるピットは、演劇なのでオーケストラは入っていませんでしたが、なぜか空のピットがありました。
ピットを使わない時は、それを床下に下げてその上に客席を設けるのですが、それをしていなかったということですね。
演出の都合なのか、客席最前列を舞台から少し離したかったのでしょうか。
とにかく幕半ばで山岡さんはピットに落下、出演者も舞台スタッフも、劇場案内係も驚きました。
そのまま舞台は進行し、休憩だったか終演だったかで幕が降りるわけですが、さてここからです。

その時、大門さんは舞台にいらした。大門さんも驚いてピットに駆け寄った。出演者数名が駆け寄ったそうですが、山岡さんは『大丈夫』、というポーズをなさったそうで、駆け寄った方々はちょっとほっとされた。
幕が降りて山岡さんの無事は確認されたわけですが、なんと大門さん、山岡さんに「按摩さんが駆け寄ったらダメでしょう」と言われたそうです。
考えたら目が見えない前提の按摩さんが、掛け寄っちゃあいけなかったんだね、と大門さんは笑っていらっしゃいました。そうはいっても心配が先に立ち駆け寄ってしまう。そこをちゃんとピットの中から冷静にご覧になっていた山岡さん、やっぱりすごい!

楽しい時間を共有させていただき、電話を切りました。
大門さん、ありがとうございました。


江戸三部作 プログラム