昭和60年(1985)8月、日航機123便の墜落事故は、ずっと心に残る惨事です。
私は帝国劇場で勤務しており、帰宅してから「日航機が消息を絶った」という
ニュースを見ました。
羽田を発ち大阪に向かっていた日航機が消息を絶ったが、日没のため捜索が難しい、とのこと、それもなんと500人以上搭乗したジャンボ機だという。
翌日、御巣鷹の尾根に墜落している機体が見つかり、大事故であることも報道されました。
その8月は東京宝塚劇場で月組の宝塚歌劇「二都物語/ヒート・ウエーブ」が上演されていましたし、宝塚劇場のお向かい 芸術座 では安奈 淳さんの「ミュージカル アンネの日記」が上演され、元歌劇団の優ひかりさんも出演されておりました。
安奈 淳さんは「ベルサイユのばら」のオスカル役で一世を風靡された方ですよね。
月組公演は大地真央さん、黒木瞳さん、剣 幸さん、涼風真世さんなどが出演されておりました。そして大地真央さんと黒木瞳さん両トップの退団公演でもあり、盛況でした。
関西からも、東京の宝塚歌劇を観劇に上京されていた方がいらしたと思います。
同時に「アンネの日記」もご覧になった方もいらしたはずです。
私は、御巣鷹の尾根に両劇場のプロプラムが散らばっているさまを思い浮かべ、別の意味で胸が痛くなったのを覚えています。
北原遥子(吉田由美子)さんも搭乗されていて、犠牲になられたおひとりです。
北原さんは、黒木瞳さん、涼風真世さんと同期でした。
劇場に勤務している従業員は、やはり芝居好き、ミュージカル好き。そんな中、いろんな方を応援している人も多かったですから、報道ではまだ明らかにされていない情報を知っている人もありました。
事故の翌日出勤すると、出札(チケット売り場)のYさんが「由美ちゃん(北原さん)が乗ってるのよ」と青ざめた様子でつぶやかれて……。
あのYさんのお顔は今も忘れることができません。
「アンネの日記」のプログラムを資料棚から引っ張り出し開いてみました。
宝塚ファンのみなさんが二つの劇場でミュージカルを楽しまれ、帰路に着かれるはずだった。
そしてまた、その余韻を楽しまれたであろうプログラム。それが御巣鷹の尾根に……
事故とはいえ、なんて悲しいことでしょうか。
北原瑤子さんも将来を嘱望されている俳優さんでした。
毎年の旧盆、日航機墜落事故は必ずニュースになります。
私は、御巣鷹の尾根に散らばったであろう「ふたつのプログラム」を思い浮かべ、空の安全を祈ります。

アンネの日記 プログラム